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「ききょう会」が力を入れている 在宅緩和ケア・ホスピスケアとは No.2

[2023.02.13]

ききょう会の「在宅ホスピスケア」について、インタビューをシリーズで掲載しております。
前回に引き続き、ききょう会が大事にしている在宅ホスピスケアについて、現場のスタッフのインタビューをおこないましたので、少しでもききょう会の在宅ホスピスケアの理解の一助になればと思っております。

※なお、このインタビューは、ききょう会とは関係のない第三者からインタビューを行ってもらっております。

インタビュイープロフィール
医療法人社団ききょう会
相談員(勤続年数:3年)
元々医療事務スタッフだったが、
相談業務や医師の動向などもおこなっている。

 

 

■緩和ケアでは、特に高度な医療を伴うので医療費も心配な方が多いかと思います。 元々は医療事務をされていたようですが、やはり医療事務の知識があることは一つの強みになっているのでしょうか?

そうですね。医療事務をやっていたので、医療費や保険制度には強く、患者さんの属性(所得や年齢による保険証の種類など)に応じて最適な医療のご案内ができるのは強みだと思います。
患者さんやご家族は保険制度には詳しくないですし、とくに緩和ケアとなると一体どれほどの医療費が発生するのだろうと心配されるかと思います。実際にかかる自己負担の費用や、制度上の負担上限額をしっかりとお伝えすることで、お金の心配をせずに患者さんのお体のケアの方に気をつかってもらえたらと思っています。
また、保険制度や医療費の部分については個別で異なりますので、診療開始前の事前訪問時に資料を持って行き説明をするようにしています。このあたりの説明が不足していると、“金額の高い/低い”は人によってとらえ方が異なり、トラブルの素になりますので、しっかりと説明させていただき納得したうえで診療を開始させていただいております。

■ききょう会の得意とされている緩和ケア医療はどちらかというと病院やホスピスとよばれるようなところで行われているような印象がありますが、在宅と病院での医療費の違いについて教えていただけますでしょうか?


病院では入院をすることになるので、やはり在宅よりは高額になるかと思います。とくに、病院では差額ベッド代という保険適用外の自費分の費用が医療費に加えて毎日発生するため1か月間の差額ベッド代だけで数十万円というのはよくある話です。在宅ではこの差額ベッド代がないため、その分は病院よりは費用がかからないことになります。
ただ、費用のみで病院か在宅かを選択するのは危険だと思います。病院には常に医師がおり、「治療」という面で、在宅ではできないような高度な医療が提供されます。一方で在宅では、安心して休めるために医療的なサポートを行うという「療養」の色が濃いのかなと思います。積極的な治療のためには病院は不可欠ですが、入院では様々な制約(面会制限や食事など)があるため、何に重きを置くかで選択するのが良いと思います。

■先ほど診療開始前に事前訪問をされているとおっしゃっておりましたが、どのようなことを行うのでしょうか?

事前訪問を行うタイミングではケアマネジャーや病院の地域連携室相談員からある程度の情報をいただいております。しかし、これらの情報では不十分な場合も多いため、まずは病状やご希望などのヒアリングをさせていただきます。というのも、例えば患者さんは退院したものの、患者さん自身は病気を知らされておらず、ご家族のみが病気を知っているというケースがあるなど、とてもデリケートな話となることが多いためです。その上で、患者さんやご家族にとってベストな方法を提案する。金額面についてもご説明を差し上げるということになります。

■緩和ケアのみを受けられたいという患者さんはどのくらいいらっしゃるのでしょうか?また患者さんの年代層を教えてください。

現在は毎月20-30名ほど新規の患者さんをお受入れしておりますが、そのうち半分くらいは緩和ケアからスタートの患者さんとなっています。残り半分は緩和ケア対象の患者さんではなく、病状が安定している患者さん、難病や重症の患者さんなど様々です。将来の緩和ケア必要性を見越し安定しているうちから当院でという患者さんもいらっしゃいます。
年代的にはやはり70-80代が多いですね。患者の絶対数が多いですから。ただ、40-60代の若い世代でも引き合いがあり、中には20代という患者さんもいらっしゃったことがあります。
若い世代の方が、患者さん、ご家族ともに心の準備ができないままということが多いので、訪問時にしっかりとご要望を引き出し、提案を行っています。

■緩和ケアの患者さんの対応をされるにあたって大事にしていることは何かありますか?

患者さんや家族の一番のストレスになるのは、急に分からないことが起こることです。当院ではすべての職種がこれを共通認識として持っております。そして、緩和ケアを開始する際には『これからの過ごし方について』という専用パンフレットをお渡ししております。このパンフレットには、患者さんの体調にどのような変化が現れるかということと、それに必要な対応を記してあります。このパンフレットを通じて理解の補助としてアドバイスをしています。実際に使用されたご家族からいただいた声として「実際にその通りになったのでびっくりしました」「これがあったので慌てなくてすみました」ということが多くあります。

また、クリニック単体では在宅ホスピスケアを行っていくのは難しいので、訪問看護ステーションの看護師(以下、訪問看護師と表記)やケアマネジャーとの協力も必要です。そのために大事なことは「患者さんの方をきちんと向く」ということだと思います。クリニック、訪問看護師、ケアマネジャーが別の方向を向いていては良い医療は提供できなくなります。例えば、医学的に正しいことを医師が主張しても患者さんや家族が最終的に納得していなければ失敗だと思います。当院では患者さんと距離の近い訪問看護師や家族の意見も聞いて、できるだけ患者さんに寄り添った判断を行います。また、訪問看護師やケアマネジャーが「これは患者さんの希望ではない判断なのでは?」と認識の不一致があれば、当院の相談員や看護師に話してもらい、そこから先生に進言できるような空気感や体制ができています。多職種が垣根なくコミュニケーションをとりやすい体制にできていることが大事だと思います。
最期まで酒やたばこもという患者さんもいらっしゃいます。制限はありますが納得しながら少しだけ嗜んでもらいます。本人はうれしいでしょうし、家族も「最期はあの人らしくてよかったな」と思ってもらえることがほとんどです。

相談員は診療初期には患者さんに介入することが多いですが、途中からは医師や看護師がメインになります。しかし、たまに私(相談員)から先生に患者さんの話を聞いてみたりすると、必要によってはケアマネジャーに報告することでさらに患者さんや家族にとって良い選択肢を提案できるということがあります。
例えば、家族が疲弊している様子が見られる場合はデイサービスやショートステイの提案をケアマネジャーに申し送ることができます。2-3日のレスパイト入院の提案ができると家族のストレスを緩和することができます。在宅緩和ケアの患者さんでも、途中から入院に変更したいと言われるケースも多くありますので緩和ケア病棟を持つ病院にあらかじめ予約を入れておくような対応も行っています。このような選択肢を提示できるだけで、ずっと家族が家で介護をしなければならないというストレスを減らすことができます。家族が頑張りすぎて疲弊して倒れてしまったら元も子もないので、些細なことでも相談してください、何とかしますからというスタンスが大事かと思います。

■コミュニケーションと言うだけなら簡単だと思いますが、実際はコミュニケーションほど難しいものはないと思います。コミュニケーションをとっていくために行っている工夫は何かありますか?

例えば当院では毎日の申し送り時間以外にも週に2回カンファレンスを行っています。このカンファレンスでは新規の患者さんのご希望、終末期の患者さんの状況(家族の思いやそのためのサポートなど含め)などをスタッフ同士で共有します。一般的にはこれはかなり頻度が多いのですが、緩和ケア時には患者さんや家族の心境の変化は多くあるためこれに対応できるようこまめに状況を把握し、素早くどのように対処するのかを決めていくのに役立っています。
当院の先生がよく使う単語で「チューニング」というものがあります。イメージ的にはただの「調整」ではなく「微調整をしながら気持ち合わせていく」ような感じだと思います。患者さん、ご家族、訪問看護師、ケアマネジャー、医師など皆の意見が割れるようなときに、最終的に同じ方向に向くように微調整をしてくことが必要になります。必要であれば当院の診療に訪問看護師やケアマネジャーの立ち合いも行います。訪問看護師やケアマネジャーからはお互いに連絡をしやすい関係だとよく言われ、このような関係があるからこそコミュニケーションがうまくいくのだと思います。
他にはMCS(メディカルケアステーション)というコミュニケーションITシステムを使用しています。例えば、相談員とケアマネジャーとのやりとりで、認識違いが発生していることに気づけたりします。画像も簡単に遅れるためスピーディーで正確な情報のやり取りに役立っています。

■相談員として在宅ホスピスケアにあたる一員として心がけていることはありますか?

相談員という立場上、医師や看護師とは異なり医療行為は行えないですが、訪問看護師やケアマネジャーから「患者さんの家族が〇〇(費用や介護疲れ)で困っているらしい」という情報が入ってくることが多いです。
家族のケアも含めて在宅ホスピスケアだと考えているので、家族の心のケアができるよう心がけています。例えば、患者さんの逝去後に、最後の医療費を請求して終わりというのではなく、電話や訪問で声替けやグリーフケア(遺族のケア)も行っています。

また、ききょう会ではクリニックが複数ありますので、複数のクリニックの相談員同士で成功事例の共有やケーススタディを行い、常にレベルアップを心がけています。
患者さん、ご家族、訪問看護師、ケアマネジャーや病院の地域医療連携室向けの分かりやすい資料なども作成し、ききょう会が行える在宅ホスピスケアを知ってもらえるようにしています。

■インタビューを終えてインタビュアーより一言

インタビューは30分程度と長くない時間でしたが、相談員ならではの視点のお話を聞くことができました。いわゆる医療資格者ではないため医療行為を行うわけではありませんが、患者さんを取り巻く家族、ケアマネジャー、訪問看護師とともに、クリニックとして患者さんに直接顔を合わせてケアを行っている一員なのだと感じられましたし、費用面の心配解決や制度をうまく使う提案をできるという面では現実的にはかなり大事な働きをしているものと思います。
ちょうどこのインタビューの30分後に新規患者受け入れの事前訪問があるとのことですが、毎月20-30人の新規患者がいらっしゃるということですので、毎日のように患者さんや家族のもとに訪問されているのでしょう。このような最初の訪問からすでに在宅ホスピスケアは始まっているのだなと感じられました。

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