医療とサステナビリティ | サステナブルヘルスケア
関東では梅雨が明けましたが、梅雨の季節にもかかわらず、連日30度を超える猛暑が続きました。
体調不良を訴えられクリニックから緊急往診する患者さんの中にも、熱中症の症状を訴える方が増えてきました。この異常な暑さは、地球温暖化の影響が顕著に表れていると言えるでしょう。
また、今年の梅雨明けは例年より早まっており、梅雨明け後は猛暑日が続出し、熱中症のリスクがさらに高まっています。
医療を提供する側としては警戒感を持っております。
熱中症は予防が可能な疾患です。こまめな水分補給、適切な室温管理などが重要になりますが、特に高齢者は温度を感じづらいというのがあります。
高齢で一人で住まれている方の自宅を訪問してみて、高熱の部屋に驚くこともしばしばあります。意識して気温を確認してエアコンを使用してほしいと思っています。
当法人のクリニックでは、患者さんには熱中症予防の啓発を行っていますが、同時に私たち医療機関自身も、地球温暖化対策としてのサステナビリティな取り組みをより一層強化する必要があると感じています。
医療における環境負荷
医療は人々の健康を守る一方で、皮肉にも環境に大きな負荷をかけているとされます。
独立系シンクタンクである日本医療政策機構の記事によると、世界の温室効果ガス排出量の約4.4%を医療分野が占めているのです。
特に先進国では、医療分野の排出量の割合が高く、アメリカでは国全体の8.5%にも達し、日本でも約5.2%(二酸化炭素(CO2)の排出量は72百万トン)ということです。
病院は特にエネルギー消費量が多く、医療分野の二酸化炭素排出量の約半分を占めているとされ、主な環境負荷の要因としては、以下のものが挙げられています。
・施設のエネルギー使用(暖房、冷房、照明など)
・医療廃棄物の処理
・医薬品や医療機器の製造・輸送
・職員や患者の移動
これらの要因を考慮すると、医療機関は環境負荷を減らすための取り組みを積極的に行う必要があるよう見えます。
サステナブルな医療
環境への負荷を最小限に抑えながら、質の高い医療を持続して提供することを目指す考え方があります。
海外ではサステナブルヘルスケアとも言われています。
サステナブルヘルスケアの重要性は以下の点にあります。
環境保護と健康増進の両立
医療の提供と環境保護を両立させることで、現在と将来の世代の健康を守ることができます。これはある意味、今の医療提供の方法は将来の世代の健康を守れないという危機感を表しています。
悪循環の回避
気候変動が健康被害をもたらし、それに対応するためにさらに医療が必要になるという悪循環を断ち切る必要があります。まさに熱中症は分かりやすい例です。
医療コスト削減
エネルギー効率の向上や廃棄物削減により、環境負荷が低減できるとともに、回りまわって医療コストの削減にもつながっていくとされます。医療コストは世界全体の課題でもあります。
サステナブルヘルスケアの実践例
サステナブルヘルスケアを実践するための方法としては、以下のようなものがあり、一部は当法人でも実施しております。
予防医療の強化
かかりつけ医として定期的な訪問により疾病予防や早期発見に注力することで、病態の悪化を防ぎ
結果的に医療資源の消費を減らすことが出来ます。
効率的な医療提供体制
デジタルテクノロジーを積極的に活用し、移動や紙の使用を抑えた遠隔モニタリング、クラウド電子カルテ、コミュニケーションツールの活用を行います。
他にも、電灯のLEDへの切り替えや、ハイブリッドカーやEVなどの環境負荷の低い車の利用、医療廃棄物の削減などがあります。
また、サステナブルヘルスケアを広めていくためには、医療従事者や患者さんに対しての啓発も必要になっていくでしょう。まだまだ多くの医療従事者や患者さんはサステナブルヘルスケアの考えを認識できていないのが現状ですので、少しずつ取り組んでいく必要があります。
医療機関の取り組み事例
日本の医療機関でも、サステナビリティへの取り組みが進んでいますので、いくつかの具体例を紹介します。
東京北医療センター
プラスチックごみの縮小化考察、二酸化炭素排出を軽減するための紙資源の利用削減を実施しています。
具体的には、院内に示す紙資源での掲示物をデジタルサイネージという形で節約、病院保有の移動車はEV化したものを選択し、気候変動対策への貢献を行っております。
また、組織としてSDGsに取り組む業者との取引を積極的に行ったり、職員個人に対しては明確な目標をもってSDGsへの貢献をしたと運営部会が認定した場合、褒章を授与するなど、動機付けを行っています。
山下病院のサステナビリティ推進室
労働環境の改善や人間工学的対策の導入で診療の効率化を行ったり、企業との連携により新たな医療機器の開発や改善に関する協力、地域や企業での講習会や学校でのSDGs教育の実施を行っています。
病院にサステナビリティ推進室という専門の部署迄設けている力の入れようです。
NTT東日本関東病院
NTT東日本グループが取り組むサステナビリティに同様に取り組んでいます。
「地球温暖化対策計画書」を病院でも作成し、温室効果ガス排出量のモニタリングを行い公開しています。
LEDへの変更や、熱効率の高い冷凍機への更新、空調機器の自動最適化制御システムの導入、トイレ洗浄水量の最適化など小さな努力を積み重ねていることが伺えます。
その他の医療機関の取り組み
病院の移動手段として電気自動車を導入して二酸化炭素排出を削減したり、敷地内への植樹により二酸化炭素の吸収を促進するなどが行われています。
ききょう会の取り組みと今後の展望
ききょう会でも、往診車としてハイブリッドカーを使用したり、環境配慮型検索エンジン「Ecosia(エコジア)」使用の推奨を行うことで環境負荷への配慮とサステナビリティを意識するように考えてはいますが、まだまだできることはあると考えています。上記の医療機関の取り組みで参考にできるものは多く、廃棄物の削減など小さなことからコツコツと取り組まかなければならないと感じています。
猛暑日が当たり前になるような気候変動は患者さんだけでなくスタッフ、人類全体の健康に大きな影響を与える問題です。医療機関として、私たちは治療を提供するだけでなく、環境保護にも積極的に取り組む責任があります。ききょう会はこれからも患者さんの健康と地球の健康の両方を守るため、サステナブルな医療の実現に向けて努力を続けてまいります。