AYA世代のがん患者と緩和ケア-在宅医療の役割と重要性
がんは高齢の患者さんに多いため、当法人では多くの高齢のがん患者さんを診させていただいております。
しかし、がんは年齢を問わず誰にでも起こりうる病気です。
とくに、15歳から39歳までの若い世代のがんの患者さんは、特有の課題に直面する点からAYA(Adolescent and Young Adult:思春期・若年成人)(アヤ)世代といわれ、この世代に関しては個別で様々な取り組みが行われています。
本記事では、AYA世代のがん患者さんに対する緩和ケア、特に在宅医療の観点からその重要性、課題や支援の在り方について記していきます。
AYA世代のがん 現状と特徴
発症数と特徴
日本では、毎年約2万人のAYA世代ががんを発症していると推定されており、これは、1年間でがんを発症する患者全体の約2.3%になります。
年代別にみると、15〜19歳で約900人、20代で約4,200人、30代で約16,300人となっています。(下記統計より全人口に換算して推計)
がん情報サービス がん統計 WEBサイトより引用
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/child_aya.html
AYA世代のがんの特徴として、以下の点が挙げられます。
- 小児がんと成人がんの両方の種類が存在する
- 進行が早いがんが多い
- 患者数が少ないため、治療法の開発が遅れている
- 受診が遅れがちになる傾向がある
AYA世代特有の課題
AYA世代のがん患者さんは、以下のような特有の課題に直面します。
- 就学や就職への影響
- 結婚、出産、育児、親の介護などのライフイベントとの両立
- 経済的負担
- 将来の妊孕性(にんようせい)への影響
- 心理的・社会的ストレス
そのため、AYA世代のがん患者さんに対しては高齢者の医療とは異なった視点の対応が必要となります。
厚生労働省 第5回 がんとの共生のあり方に関する検討会 資料より引用
https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/000871206.pdf
AYA世代と高齢者世代の緩和ケア
当法人では在宅ホスピスケアの考えとそれに基づく緩和ケアに重きを置いております。
そして緩和ケアはどの世代にとっても重要な選択肢となりますが、とくにAYA世代のがん患者さんに対する緩和ケアは、以下の点で特に他の世代とは異なると考えられます。
AYA世代の緩和ケア
AYA世代は学業、就労、結婚、育児などのライフイベントが重なる時期です。そのため、治療と並行してこれらの活動を支援する必要があります。
これらの活動を行うにあたっての心理的・社会的な課題も多く発生するため友人や家族との関係維持や将来への不安に対する支援も求められています。
また、介護保険や小児医療助成などの制度から外れることが多く、経済的・制度的支援が不足しがちという点は見逃してはいけません。
高齢者世代の緩和ケア
高齢者は身体的な衰えが進んでいるため、日常生活動作(ADL)の支援や身体的苦痛の緩和が中心となります。同時に、地域コミュニティや家族との繋がりを維持するための支援や、終末期を迎える準備として、家族とのコミュニケーションや意思決定の支援も重要となってきます。
高齢者では介護保険制度を利用できるため、在宅や施設でのケアを受けやすい環境にあります。
AYA世代のがん患者に対する在宅緩和ケア
先に挙げたようにAYA世代では次のようなポイントを意識した支援が重要になってきます。
- 多様なライフステージに対応した個別性の高いケア
- 心理社会的支援の重視
- 経済的支援や制度的サポート
- 長期的なサバイバーシップ
そして、当法人のような在宅緩和ケアを提供する医療機関には次のような役割があると考えられます。
まず、AYA世代の最も特徴的であるライフイベントが多様という部分に関してですが、患者さんの生活環境や希望に合わせた柔軟で個別性の高い緩和ケアを提供することが重要となります。
ただ、40歳未満は介護保険が利用できず、18歳以上は小児慢性特定疾病医療費助成も受けらないという制度の狭間があります。
そのため病院への入院費用や、介護サービスの利用費用の面でハードルが上がってしまいます。
通院せずに自宅で療養する24時間対応の在宅医療を提供するために訪問看護など多職種と連携し、包括的なケアを提供する中心的役割を果たす必要があるでしょう。
そして、住み慣れた環境で過ごしたいというAYA世代の希望に沿い、QOLの向上に貢献することが重要になってきます。
下記は千葉県松戸市におけるAYA世代のがん患者の在宅療養における10名のサービス利用状況の調査です。介護サービスを自費で受けながらも、一部は経済的な面でサービスの利用を見送っている実態があります。
AYA世代のがん患者が在宅で療養するために必要な支援とは(2022.10.03 週刊医学界新聞(通常号):第3488号より) 住谷智恵子 医学書院WEBサイトより引用
https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2022/3488_02
AYA世代のがん患者支援における課題と今後の展望
現状の課題
現在はAYA世代特有のライフイベントの多様性に応じた個別の対応や制度の不足、そしてそこから来る心理的・経済的不安というものがあります。
また、AYA世代に対応できる専門家の不足や地域間格差、長期のフォローアップ体制の不足があるとされています。
例えば、下記は全国47都道府県,20政令指定都市,772市における公表情報の調査です。AYA世代に対する具体的な支援を行えていたのは20自治体(19地域)です。
支援内容は,介護保険サービスと共通のものが中心ではサービス利用料の5-9割、5~8万円/月とする自治体が大半となっています。
具体的な取り組みを行っている自治体はこれほどまでに少なく、助成は介護保険制度(1割がメイン)に比べると低いという現状があります。
AYA世代のがん患者が在宅で療養するために必要な支援とは(2022.10.03 週刊医学界新聞(通常号):第3488号より) 住谷智恵子 医学書院WEBサイトより引用
https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2022/3488_02
また、AYA世代が情報を得たり、相談できる体制がまだまだ整っていないのが現状です。
下記資料では「15歳以上で発症したAYA世代にあるがん患者は、治療中に様々な不安や悩み等を持っているが、医療機関で「相談したかったが、できなかった」と回答した人が少なくない。」とレポートされています。
厚生労働省 第5回 がんとの共生のあり方に関する検討会 資料より引用
https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/000871206.pdf
今後の展望
国や自治体レベルでのAYA世代に特化した支援制度の整備や、治療後の健康管理やサバイバーシップケアの体制整備など長期的なフォローアップ体制の確立、病院と地域の医療機関、福祉施設などが協力して支援する体制づくりが必要となるでしょう。
また、AYA世代のがん患者さんやその家族が必要とする情報はあまり多くなく、アドバイスできる専門家が少ないのも現状です。情報へのアクセス面、専門家の養成などが急がれます。
おわりに
AYA世代のがん患者さんに対する緩和ケアはまだまだ発展途上であり、特に在宅医療の重要性は今後ますます高まると考えられます。患者さん一人ひとりのニーズに寄り添い、その人らしい生活を支える在宅療養支援診療所の役割は大きいといえるでしょう。
ききょう会はAYA世代のがん患者さんとそのご家族に寄り添い、多職種で連携しながら、最適な在宅緩和ケアを提供できるよう努めてまいります。
医療法人ききょう会は東京都から埼玉県まで広く在宅医療(訪問診療)の提供を行っており、特に在宅ホスピスケア・緩和ケアに力を入れています。
豊島区、北区、文京区、板橋区
豊島区、北区、文京区、板橋区、足立区
足立区、葛飾区、埼玉県草加市、八潮市
埼玉県上尾市、桶川市、伊奈町、蓮田市、さいたま市見沼区・北区・岩槻区
(参考)AYA世代のがんに役立つ情報
東京都保健医療局 AYA世代がん相談情報センター
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/iryo/iryo_hoken/gan_portal/soudan/aya_jouhoucenter.html
がん情報サービス がん統計小児・AYA世代のがん罹患
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/child_aya.html
国立がん研究センター AYA世代のがんについて
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/AYA/index.html
全国AYAがん支援ネットワークチーム
東洋経済 「若い世代のがん在宅医療」費用はどれくらいか?
https://toyokeizai.net/articles/-/588759
AYA世代のがんとくらしサポート 国立研究開発法人 国立がん研究センターがん対策研究所 がん情報提供部 八巻知香子