初の6月実施の診療報酬改定 日本の在宅医療の新展開
患者さんの QOL 向上や医療費抑制の観点から、できる限り自宅で療養できる在宅医療が求められています。
しかし、在宅医療を支える医療資源の不足や、多職種連携の課題など、乗り越えるべき課題も山積しています。
このような課題を政策により解決すべく2年に1度、定期的な診療報酬改定が行われていますが、2024年に関してはこれまでの4月実施から初めて6月に実施されることになりました。
これは診療報酬改定により準備や作業等を行う医療機関や医療システムベンダーへの負担軽減を鑑みたもので診療報酬改定DXと合わせて進められたものです。
そしていよいよ来月から診療報酬改定となります。当法人だけではなくその他多くの施設で診療報酬改定に伴う届出等の準備に追われていると思います。
とくに在宅医療分野の診療報酬改定は当法人には大きく影響しますので、診療報酬の内容を読み取り今後の日本の在宅医療の行き先を見定めたいと思います。
診療報酬改定が促す在宅医療の変革
2024年度の診療報酬改定では、一部の医療機関はその立ち位置を考え直さなければなりませんが、概ね在宅医療を充実させる方向の施策が打ち出されています。ここでは次の4点をトピックとしました。
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医療DXの推進
在宅医療におけるICTを用いた医療DXも大きな特徴です。これまで進められてきたオンライン資格確認による医療情報活用や、オンライン診療、コミュニケーションツールなど様々なICTツールが登場しています。これらを活用することで、医療介護従事者の負担軽減や患者さんの QOL 向上が期待されています。
例えば、在宅医療DX情報活用加算、情報通信機器を用いた遠隔連携診療料(D to P with D)、情報通信機器を用いた通院精神療法などが新設されています。
さらに、訪問看護の領域ではオンライン資格確認による訪問看護医療DX情報活用加算や遠隔死亡診断補助加算など新たな加算が新設されました。
なお、在宅医療DX情報活用加算については、居宅同意取得型オンライン資格確認「マイナ在宅受付Web」を用いることでオンライン資格確認を行うことで算定することになります。
マイナ在宅受付Webについてはこちらのブログで触れております。
2024年4月開始「マイナ在宅受付WEB」で在宅医療はどう変わる?
厚生労働省 医療DXの推進に関する工程表 より引用
ICTを活用した多職種連携の強化
在宅医療では、医師、看護師、薬剤師、ケアマネジャー、介護職、リハビリ職など、多職種が連携して1人の患者さんを支えることが重要です。これらの職種間の情報共有を積極的に行うことで、より密接な連携が期待されています。
また、今回の改定では、介護施設との連携に対する評価も新設されました。医療と介護の切れ目のないサービス提供が目指されています。
在宅医療情報連携加算、介護保険施設等連携往診加算、在宅がん患者緊急時医療情報連携加算、往診時医療情報連携加算の新設や、緩和ケア病棟緊急入院初期加算の要件緩和が行われました。
当法人では何年も前からMedical Care Stationという医療介護のコミュニケーションツールを使用し、様々な職種や事業所と連携をとってきました。このような連携が加算という形で評価されるようになることでより連携がスムーズになることが期待されます。
厚生労働省 令和6年度診療報酬改定の概要【在宅(在宅医療、訪問看護)】より引用
在宅ターミナルケアの強化
病院で終末期を迎えるよりも、在宅で迎えることのニーズが高まっています。
ききょう会では在宅ホスピスケアを推進しており、同様のアプローチによる緩和ケアも多く携わってきました。 (在宅ホスピスケアについてはこちらに記しております。)
今回の診療報酬改定では自宅でも高度な医療を提供したり、病院などの関連機関とスムーズな連携をとることに対し高い評価がされるようになります。
例えば、緩和ケアを要する心不全または呼吸器疾患の末期の患者に対する在宅麻薬等注射指導管理料や、在宅強心剤持続投与指導管理料が新設されます。
他にも、在宅がん患者緊急時医療情報連携加算、往診時医療情報連携加算、往診料(看取り加算)などが新設され、在宅ターミナルケア加算や緩和ケア病棟緊急入院初期加算の要件緩和がなされます。
厚生労働省 令和6年度診療報酬改定の概要【在宅(在宅医療、訪問看護)】より引用
かかりつけ機能(定期的な訪問診療)を重視
在宅医療では定期的な訪問を行うケースと、不定期緊急的に患者さんの要望に応じて往診を行うケースがあります。
特に新型コロナウィルス流行時期においては、通院困難な患者さんに対し不定期緊急的に往診対応を行う医療施設は多くの価値を提供してきました。
しかし、今回の診療報酬改定では、定期的な訪問診療を重視する国の方向性が明確になりました。かかりつけ医が定期的に訪問することで患者さんの状態変化を早期に捉え、適切な医療介入につなげることが重視されているということが伺えます。なお、当法人のクリニックは定期的な訪問診療を行っているクリニックです。
下記表の一番右「その他の場合」が不定期に往診を行っている医療施設の往診料の点数です。
特に夜間休日、深夜の点数が他の医療施設に比べて大きく点数が下がっていることが分かります。
そのため、不定期緊急的な往診サービスを行っていた医療施設(また、そのサービスプラットフォームを提供する会社)はサービス規模縮小や撤退を余儀なくされていると聞きます。
厚生労働省 令和6年度診療報酬改定の概要【在宅(在宅医療、訪問看護)】より引用
ききょう会はICTを用いた多職種連携に力を入れています
当法人ではMedicalCareStatio(メディカルケアステーション、以下MCSで表記)という医療介護チーム連携用のSNSコミュニケーションツールを使用しています。
例えば、訪問看護ステーションの看護師が褥瘡を見つけたときに皮膚の状態を医師に伝える際、電話を用いるとなかなか状態を伝えることは難しいものです。ですが、MCSで画像や動画を使いながらリアルタイムで医師とやり取りができれば最も正しい情報と正確な医師の指示が得られます。
さらにこのやりとりは一斉にケアマネージャーや患者家族にも届けることができます。
また、紙やFAXを使うよりも、転記ミスやコミュニケーションミスが起こりにくくなるとともに、リアルタイム性が高まり、事業所の記録システムへの記入作業効率も上がるなど業務の効率化に大きく貢献します。
患者家族とのコミュニケーションツールとしても機能し、患者さんの健康状態や日々の変化を共有することで、信頼関係の向上にも繋がっています。
エンブレース社 メディカルケアステーション より引用
ききょう会ではかねてよりMCSを使用してきた実績があり、地域の医療介護関係者にこのコミュニケーションツールの利用方法に関するレクチャーなども行うことで、地域の情報連携に貢献できれば良いと考えております。
都立大塚病院様で開催された勉強会に参加させていただき、MSCを活用した病診連携方法についてお話させていただいました。
最後に
日本の在宅医療は、診療報酬改定を契機に大きな転換を行います。
定期訪問の重視、DXの活用、多職種連携の強化、ターミナルケアの推進など様々な取り組みが進められています。
これらを通じて、患者さんのQOL向上と医療の効率化が期待されます。今後も、在宅医療の更なる充実に向けた施策が展開されていくことでしょうし、ききょう会もそのニーズに答えた、より質の高い医療を提供していきたいと考えています。