ANAのおもてなしから学ぶ:在宅医療現場での総合力向上
在宅緩和ケアや在宅ホスピスケアを重視する私たちのクリニックでは、医療技術はもちろんですが、患者さんやそのご家族との信頼関係構築にかかるコミュニケーションに関する技術も極めて重要です。
そのため、医療技術に関する研修の他にもコミュニケーションや接遇等に関する技術の向上のための研修をお行っています。
この度、世界的に高い評価を受けているANAの接遇研修を導入し、医療サービスの質を新たな次元に引き上げる取り組みを行いますのでブログにて簡単にご紹介いたします。
医療業はサービス業でもある
医療機関や航空会社は同じサービス業となりますが、とくに、安全第一であるということ、多職種によるチームワークが必要になること、不安な気持ちを取り除くこと、相手を大切に思う気持ちを適切に表すことなどは共通して重要な点と言えます。
(ANA WEBサイトより抜粋)
ANAは、英国SKYTRAX社のエアラインスターランキングで2013年から連続で最高評価の5つ星を獲得しています。この成果の裏にはANAの「おもてなしの心」つまり、形式的なサービスではなく「お客様の立場に立って考え、サービスを提供するという姿勢」があるとされています。
ANAの高いサービス品質の背景には、ANAの客室乗務員が実践する「短時間で信頼関係を築く」メソッドがあり、このメソッドはサービス工学の研究で、論文にもなった科学的に体系化されたものであるといところも着目すべきところです。
今回の研修ではこの体系化された手法を医療現場にも応用する形での研修となります。
https://www.anahd.co.jp/group/pr/pdf/20180311.pdf
(ANA WEBサイトより抜粋)
研修内容について
ANAの研修プログラムの中心にあるのは「対応力を高める4ステップ」です。これは観察、想像、行動、確認という4つの要素から構成されています。
この4ステップは、医療現場でも同様に重要なことであり、患者さんやご家族との信頼関係構築に大きく貢献するものと考えています。
特に在宅緩和ケア、ホスピスケアの対象となる患者さんやご家族にとっては一生に一度経験するかどうかという出来事となるため、大きな不安を伴います。この不安な気持ちを少しでも取り除けるように、患者さんやご家族の心理を学び、適切な行動をとっていくのは医療従事者として重要なことです。
そして、本研修では、この4ステップを実践すべく、次のようなことを行います。
相手を大切に思う気持ちを適切に表す医療現場でのマナー(表情、アイコンタクト、身だしなみ、挨拶、姿勢、立ち居振る舞い、会話力、物の渡し方など)、医療現場に特有の電話応対のマナー、さらにこれらを総合した演習として、実際の医療現場を想定したロールプレイを行うことで実践のイメージをつけます。
特に注目すべきは「医療現場でのマナー」セクションでしょうか。在宅緩和ケア、ホスピスケアに関わることが多い当法人では、患者さんやご家族の心理を配慮した立ち居振る舞い、適切な言葉遣いが求められ、日々の医療現場と結び付けて深く学ぶことができるでしょう。
法人ビジョンとのベクトル合わせ
この研修は単なるスキルアップにとどまりません。当法人が大事にしている「在宅ホスピスケア」の精神にも繋がります。
患者さん中心の思いやりのある在宅医療を実現するための具体的な行動指針となり、スタッフ一人一人がこのビジョンを体現することで、組織全体のベクトルを合わせることができます。
研修後は当ブログを更新し、実際の研修の様子や参加者の声、そして早速実践で活かされるような事例などをお伝えできればと思っています。どうぞご期待ください。
研修レポート
当研修では、ANAビジネスソリューション株式会社様の独自メソッドである、観察・想像・行動・確認の「対応力を高める4ステップ」という、科学的に裏付けられた手法に基づき、相手との信頼関係を築くために必要な身だしなみや立ち居振る舞いなどについての座学と演習が行われました。
最初のステップでは、心のカメラのシャッターを押すように、相手の状況を「観察」することの大切さを勉強しました。これは、個人の思い込みや気持ちのみを先行させず、より客観的に相手の状況を把握するという意味で重要なことです。「良かれと思って行ったが良くなかった」を防ぐことが出来ます。
そしてその後のステップで相手の状況を「想像」し、より相手の立場に立った「行動」をとることにつながります。さらに、先の「観察」「想像」「行動」に誤りが無かったかを事後に「確認」するということも、重要なポイントです。「確認」で誤りがあった場合にはきちんと修正しなければなりません。
対応力を高める4ステップについて、実際に当法人で想定される状況を再現し、受講生それぞれが「どのように観察できたか」を起点として、その後の一連のステップを書き出し、それぞれの対応について共有し合いました。
受講生のなかでも少しずつ捉え方やその後の行動が変わってくることが理解でき、とくに最初のステップである「観察」でいかに状況を的確に把握するかの重要性について認識することが出来ました。とくにこのあたりは、在宅緩和ケア・ホスピスケアというセンシティブな場面に携わることの多い当法人ではしっかと身につけるべき能力であると実感されました。
当法人は患者さんの個人宅に訪問することが多いため、訪問時に知っておくべき基礎的なビジネスマナーや立ち居振る舞いについても学びました。
医療従事者は、なかなか体系的に学ぶ機会が少ない「立ち方」「お辞儀の仕方」「名刺交換の方法」などを、今回の研修で体験的に学ぶことができ、これまで何となく我流や見よう見まねで行っていたビジネスマナーについて、正しい形を理解することができました。
また、実際に研修生同士で 個人宅への訪問場面を想定したシミュレーション演習を行ったことで、自分自身の悪い癖に気づくとともに、良い点も理解することができ、互いに学び合いながら成長できる場となりました。
相手を大切に思っていても、ビジネスマナーが不十分であると、不快感を与えてしまい信頼関係の構築が難しくなることもあります。そのため、「気持ちを行動で示すこと」 の重要性も学ぶことができました。
研修は約4時間と かなりのボリュームとなりましたが、その分、多くのことを学ぶことができました。
印象に残った基本的で最も重要な点は、「相手を大切に思う気持ちを持つこと」でした。
医療の現場では、刻一刻と状況が変わるため、その変化を的確にとらえ、相手がどう感じているのかを考えながら、そのタイミングで最も適切な行動をとることは非常に難しいものです。
もし、 我流や何となく対応してしまうと、どこかの場面で信頼を失う可能性が高くなります。
とくに、医療はサービス業の一面も持つため、患者さんやご家族とのやり取りの中で 一度でも不快な印象を与えてしまうと、その他の内容がどれほど良くても医療サービス全体の評価が低くなってしまうということを再認識しました。
ききょう会は当研修で学んだことを活かし、より良い医療、在宅緩和ケア・ホスピスケアを提供できるよう、今後も邁進してまいります。