心不全パンデミックにおける在宅医療の役割
心不全パンデミックとは
日本は現在「心不全パンデミック」と呼ばれる深刻な状況に直面しています。
心不全パンデミックとは、高齢化や生活習慣病患者の増加に伴い心不全患者数が爆発的に増加する状況を指します。
心不全の発症率は年齢とともに上昇し、80歳以上では10%にも達します。
そのため、超高齢社会である日本では、心不全患者数の増加が避けられない状況となっており、2020年の心不全患者数は約120万人に達し、2035年には約130万人に増加すると予測されています。
この心不全パンデミックの状況で在宅医療は重要な役割を果たすことが期待されています。
当法人でも心不全の患者さんの在宅緩和ケアを行うことが増大しており、3年前に比較し2倍以上と増大している状況です。
下記ページの「在宅持続陽圧呼吸療法」の項目のみを参考にしても2021年から2倍程度に増えていることが伺えます。
(日本経済新聞『国内120万人、心不全 在宅ケアで「生活の質」確保』より引用)
心不全パンデミックがもたらす課題
心不全パンデミックは医療従事者や病床数の不足、 医療費の増大、 患者のQOL低下、介護負担の増加などの課題をもたらしつつあります。
これらの課題に対応するためには、従来の病院中心の医療体制だけでは不十分であり、在宅医療を含めた包括的な医療体制の構築が必要となります。
在宅医療の役割
心不全パンデミックに対応するうえで、在宅医療は以下のような重要な役割を果たします。
入院から在宅管理への移行支援
長期入院から早い段階での自宅での健康管理への移行を支援します。
入院先病院と在宅医療機関間で情報共有を行うことでスムーズな移行を実現します。
これにより、患者さんのQOLを維持しつつ病床の効率的な利用にも貢献します。
当法人では情報共有のためのICTツールMedicalCareStation(MCS)やCAREBOOK等を利活用することで情報共有の効率化を図り、医療の質を向上させることに取り組んでいます。
MCSの利用について
CAREBOOKの利用について
再入院の予防
在宅医療に移行した患者さんのもとへ定期的な訪問診療を行い、さらに訪問看護ステーションや薬局とも連携することで患者さんの状態を継続的に評価し管理していきます。
これにより病状悪化の早期発見につなげ再入院を予防し不要な入院を減らすことができます。
患者さんは自宅で過ごすことのできる時間が増加し、人生のQOLは向上します。
結果として医療資源の効率的な利用にも貢献することができます。
在宅での終末期医療
終末期には患者さんの希望に応じて、その時々の体調変化に応じた医療的処置や心のケアを提供できます。
慣れ親しんだご自宅で、患者さんやご家族の意思を尊重しながら最期の時間を支援することができます。
在宅でも可能な多職種連携で患者さんのQOLを向上
在宅医療では医師、訪問看護師、訪問薬剤師、訪問リハビリ、訪問介護など多事業所の多職種でチームを組み、包括的な医療を提供します。
病院でなくても患者さんがが住み慣れた環境で療養を続けられるようサポートすることで、その人らしい生活を維持・向上させる役割を担います。
在宅医療における心不全ケアの取り組み
在宅医療における心不全ケアは、以下のような要素で構成されます。
1. 症状管理:呼吸困難、倦怠感、むくみなどの症状を適切に管理します。
2. 薬物療法の最適化:患者の状態に合わせて、利尿剤やβ遮断薬などの投与量を調整します。
3. 非薬物療法:栄養指導、運動療法、セルフケア支援などを行います。
4. 心理的サポート:不安や抑うつに対するカウンセリングや支援を提供します。
5. アドバンス・ケア・プランニング:今後の治療やケアについて、患者とご家族の希望を確認し、計画を立てます。
6.家族サポート:使える制度などで介護者の負担軽減策を検討し、家族をサポートします。
ききょう会の心不全への取り組み紹介
使い切りホルター心電図の活用
ココロミル社のeclatという製品が2024年11月より保険適用となったため当法人でも早速利用しています。
eclatは使い切りタイプのホルター心電図で、機器の返送等は郵送が行えるため患者さんの通院回数を減らすことができます。また以前は機器が他の患者さんに使われている場合はよくお待たせすることもあったのですが、このようなことも起こりにくくなり、より迅速に検査ができるようになっています。
事例 90代の女性 主病名:心不全
循環器の医師にて月2回の訪問診療
【初診時のご家族様の想い】
浮腫んで本人が辛そう。浮腫みの原因の心不全を治療してもらいながら、全身状態のコントロールをして欲しい。
【経過】
当患者様は2019年5月よりケアマネジャー様からご紹介を頂き訪問診療を開始しています。
当院での初診前は、下肢の浮腫があり体重が70kg台まで増加し、入院加療をされていた状況でした。退院された5月の初診時は、体重は減少していたものの、依然として浮腫みが酷い状況でした。
当院では心不全の悪化や浮腫み除去のため、体重の管理を中心に診療をしていく方針としました。
現在(2019年10月時点)では写真【1初診時】であった下肢が、写真【2現在】となりました。
利尿剤等の調整以外にも、ご家族様にて毎食の食事摂取量の管理、訪問看護ステーション様を中心に体重計測や状態観察をしていただいた結果、心不全の症状も落ち着き、現在は体重も42kg台で安定しています。ご家族様を含めた医療介護ONE TEAMで患者様を支援することで、安心した在宅療養生活を送ることができるようにしています。
(在宅療養だより 巣鴨ホームクリニック Vol.1 2019年10月 より抜粋)
今後の課題と展望
現時点では心不全パンデミックに対応する体制が十分とはいえないのが現状です。特に以下のような課題に取り組む必要があると考えられます。
地域連携・多職種連携の強化
病院と地域の医療機関、介護施設などが連携し、様々な分野の専門家がスムーズに連携して支援を行う体制の構築が必要でしょう。
情報提供の充実
心不全患者さんやそのご家族が必要な情報にアクセスしやすい環境整備が必要でしょう。
テクノロジーの活用による医療の質の向上
遠隔モニタリングやオンライン診療、健康データの一元管理など、最新デジタル技術を活用した在宅医療の発展により新たな医療体験を作り出すことが期待されます。
現在の先進的な事例
京都府立医科大学とオムロンヘルスケア株式会社が中心となって2019年から実施している「在宅における心不全ICTモニタリングプロジェクト」の取り組みがあります。
このネットワークでは、京都市を中心に医療機関や介護サービスと連携し、医師、看護師、薬剤師、理学療法士、管理栄養士などの多職種チームが心不全患者にアドバイスを行っています。
具体的には、ICTを活用したモニタリングシステムを導入し、患者の日々の状態を遠隔で把握しています。家庭で記録可能な心電計や体重計などのデバイスを用いて、患者の心拍数や体重の変化をリアルタイムで確認し、心不全増悪の予兆を早期に発見することを目指しています。
この取り組みにより、患者の療養生活を支えながら、繰り返す心不全の増悪を防ぐことが期待されています
https://www.healthcare.omron.co.jp/corp/news/2024/0724.html
https://kpu-m-cardiovascular-and-nephrology.net/information/advanced/201216-2/
(オムロン株式会社WEBサイトより引用)
まとめ
心不全パンデミックに対応するためには、大学病院などの高度医療機関から地域の医療機関、在宅医療クリニックまで、心不全の状態に合わせた適切な役割分担と連携が不可欠です。
在宅医療はこの医療連携の中で重要な位置を占め、患者のQOLを維持しながら医療資源の効率的な活用にも貢献できると考えています。
ききょう会でも心不全の患者が年々増加していますが、心不全患者さんやご家族に寄り添い、在宅ホスピスケアの精神を大事にし、最適な在宅療養、緩和ケアを提供できるよう努めています。
クリニックの紹介
医療法人ききょう会は東京都から埼玉県まで広く在宅医療(訪問診療)の提供を行っており、特に在宅ホスピスケア、緩和ケアに力を入れています。
豊島区、北区、文京区、板橋区
豊島区、北区、文京区、板橋区、足立区
足立区、葛飾区、埼玉県草加市、八潮市
埼玉県上尾市、桶川市、伊奈町、蓮田市、さいたま市見沼区・北区・岩槻区