「ききょう会」が力を入れている 在宅ホスピスケア・緩和ケアとは No.3
ききょう会の「在宅ホスピスケア」について、インタビューをシリーズで掲載しております。
今回はなかなか一言では言い表すことのできない在宅ホスピスケアについて、「病院でのケアとの違い」「在宅ホスピスケアならではのコミュニケーション(患者さん以外のご家族や、訪問看護師、ケアマネなど)」「医師としての考え方」などを主眼にききょう会に勤務している医師にインタビューをおこないました。
※なお、このインタビューは、ききょう会とは関係のない第三者からスタッフへインタビューを行ってもらっております。
■先生が定期的に診られている患者さんは何人くらいで、そのうち何人くらいが在宅ホスピスケア/緩和ケアの患者さんでしょうか?
花畑クリニックは常勤医師が3名、非常勤医師が5名の体制で運営しております。
約300人の患者さんがおり、5~6割が緩和ケアの患者さんです。
以前は緩和ケアというと病院(入院)と自宅が半々くらいでしたが、コロナが流行って以降は病院に入院すると面会が難しいということもあり、今は在宅が中心となってきている印象です。それでもまだまだ緩和ケアというと病院(入院)というイメージが強いのが現状です。
一時的に肺炎などの急性の疾患で、病院に入院をして、病院から自宅へ戻るというケースも多くありますが、病院に入院をした患者さんが病院に行ったら立てなくなって帰ってきたというケースがありました。病院は疾患の治療という目的を果たしてはいるのですが、患者さんが変わり果てた姿で帰ってきた場合、残された家族にとっては理解納得しがたいものです。
また、近年ではどのように人が亡くなっていくのかを知らない方が多いというのも一つの問題点だと思います。
昔は3世代が一緒に住む家族だったので、祖母が亡くなる過程を見たことがあるなど、人が亡くなることを理解している人も居ましたが、核家族化に伴って、人が亡くなる過程を全く見ずに急に死に直面するという状況になってきているのだと思います。
特に現代は医療が発達しているので、病気を患ったら何となく病院に…という意識が強くあり、親をどう看取るかを判断ができない、責任もって自分たちで看ますというご家族は少ないと感じています。
加えて、老々介護という言葉が一般的となりつつありますが、
患者さんの世話をしてくれる人を探すことも、世話をすることも難しくなっていると思います。
誰かに来てもらうとお金もかかる、子供に介護してもらおうとしても子供には子供の家庭があるのでなかなか難しいという時代です。
このような時代の中で、訪問看護や我々のような在宅医療機関がサポートすることができると思います。
病院の方で手厚くみてくれることも少なくなってきましたので、受け皿としての在宅医療が今後益々必要になっていると感じています。
■現在の訪問診療を行われる前後で、診療の考え方で変わったことがありましたら教えてください。
私は循環器が専門なので心不全の末期患者さんを多く診察しています。
例えば通院できなくなった心不全の方や治療ができなくなった心不全の方などです。
また、がん疼痛緩和の専門の先生の受け持ち患者の8割は、がん終末期患者の緩和ケアとなっています。
大学病院での勤務医時代は患者さんに病名をつけ、その病気に関するガイドラインをベースに診断、処方を行うということが病院医師としての共通認識でした。
つまり、通院している患者さんの特定の病気の治療のみが対象となり、患者さんの体全体や生活のことよりも、ガイドライン通りの薬を飲んでもらうことを優先しがちでした。
一方で患者さんは複数の病気を持ち複数の病院に通院していることも多くあります。
このような患者さんの場合、複数の病気の薬を飲むため、多い人は毎朝10錠以上という大量の薬を飲んでいたりします。
体力の少ない高齢者の場合、嚥下力も落ちており、一日に3度も10錠を超える薬を飲むというのはとても苦痛なことなのです。
私が訪問している患者さんの殆どはこのような患者さんですので、患者さんの生活スタイルと向き合い、患者さんのQOLと天秤にかけ、一錠でも減薬できないかと考えるようになりました。
例えば、動脈硬化性の疾患を予防する薬を飲んでいる患者さんの例です。
70歳代の患者さんであれば動脈硬化を予防することはとても大事ですが、90歳を超えるような患者さんの場合は動脈硬化を予防するよりも残りの人生のQOLを上げることを優先するケースも考えられます。
このような場合には、患者さんやご家族と相談し、患者さんの残り人生のQOLを優先して最低限の薬に絞ることも検討することがあります。
さらに、患者さんの生活スタイルに沿って、患者さんの身体的にも精神的にも負担にならないように考えていきます。
例えば心不全の薬の場合、この薬はとても良い薬なのですが、おしっこが続いて夜がつらいなどの症状があります。
病院であれば尿道カテーテルや常駐の看護師さんがいるのですぐに対応できますが、自宅では難しくなります。このように、ガイドライン通りの診療が全て答えではないのです。
■ききょう会は在宅ホスピスケアを重要視そして得意とされていますが、どのようなことを意識して取り組まれていますか。先生の「考え方」の面と「実際に取り組まれている実例」について教えてください。
心不全やがんの末期の患者さんに対して、家族は医療の知識を持ち合わせていないので、通常は何もできずに動揺してしまいます。
通常は週に1回の訪問になりますが、心不全やがんの末期患者さんを受け持った時は週に2回~3回訪問して
とにかく患者さんやご家族に顔を出すようにしています。
家族にとっては診察を受けた病院から言われていたことだけでは不安が残ります。
そこで、私達が頻繁に通って話を聞いてあげることで、不安を取り除くことができると思います。
患者さんの状況は刻一刻と変わる中で、緊急の場合でもすぐに相談できて、すぐ答えが返せるような体制をとっています。
特に週明けの月曜日と週末の金曜日は日が開いてしまうと患者さんの状態が気になるので、金曜日に何とか時間を作って訪問するなどの工夫も行っています。
日々の診療体制の面でも先生方に余裕を持たせ、いつでも対応できる先生を1名クリニックに配置しています。
そうすることでゆとりをもって診療に取り組め、緊急時にも落ち着いて対応することができるようになっています。
また、訪問看護ステーションの看護師(以下、訪問看護師)とはコミュニケーションをしっかりとることを大切にしています。
訪問看護師は我々医師よりも頻繁に患者さんのところに通っているものです。訪問看護師からリアルタイムな連絡や、MCS(メディカルケアステーション)という他職種連携のためのITシステムを通じて、早い判断を取れる体制づくりをし、患者さんやご家族の不安を早く収集して解消していく事を心がけています。
患者さんの家族が不安になったらすぐ解消するという対応に、ご家族からは「話を聞けてよかった」という声を掛けてくださるので、どの先生、スタッフもやりがいに繋がっています。