在宅ホスピスケアとは
医療法人社団ききょう会では在宅ホスピスケアの実践と普及に力を入れています。
本ページではききょう会の強みである在宅ホスピスケアについてまとめております。
ホスピスケアとは?
ホスピスケアは20世紀中ごろからイギリスで発展してきました。
1967年に世界初の近代的ホスピスが設立され、その設立者であるシシリー・ソンダースは痛みの管理だけでなく、心理的、社会的、スピリチュアルなサポートの必要性としてホスピスケアを提唱しました。
「ホスピス」というとターミナルケア(終末期医療)のイメージも持つ方が多いかもしれませんが、ホスピスケアは延命治療の検討段階よりもずっと前の病気の予防や診断、人生のQOLを考える段階から関わっていくケアのことです。
緩和ケアとは?
ホスピスケアと似た単語として緩和ケアという言葉があります。
緩和ケアはホスピスケアの考えをベースにしており、1989年,2002年にWHOが時代の進展に応じて段階的に定義づけしたものです。
2002年WHO 緩和ケアは、生命を脅かす疾患による問題に直面する患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的、心理的、社会的な問題、さらにスピリチュアル(宗教的、哲学的なこころや精神、霊魂、魂)な問題を早期に発見し、的確な評価と処置を行うことによって、 苦痛を予防したり和らげることで、QOL(人生の質、生活の質)を改善する行為である |
さらに、2002年のWHOの定義は英語によるものですが日本語として定義づけるべく日本緩和医療学会など緩和ケアに関わる18団体で次のように日本語訳を定義しています。
「緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである。」 |
さらに、2002年のWHOの定義には次の事項が付帯しています。
緩和ケアは ・痛みやその他のつらい症状を和らげる ・生命を肯定し、死にゆくことを自然な過程と捉える ・死を早めようとしたり遅らせようとしたりするものではない ・心理的およびスピリチュアルなケアを含む ・患者が最期までできる限り能動的に生きられるように支援する体制を提供する ・患者の病の間も死別後も、家族が対処していけるように支援する体制を提供する ・患者と家族のニーズに応えるためにチームアプローチを活用し、必要に応じて死別後のカウンセリングも行う ・QOLを高める。さらに、病の経過にも良い影響を及ぼす可能性がある ・病の早い時期から化学療法や放射線療法などの生存期間の延長を意図して行われる治療と組み合わせて適応でき、つらい合併症をよりよく理解し対処するための精査も含む |
日本緩和医療学会より抜粋
なお、当院は日本緩和医療学会の認定研修施設でもあります。
ホスピスケアの対象はがんだけではない
日本では2007年施行のがん対策基本法で、がんによる苦痛の緩和や患者のQOL(生活の質)の向上を目指し、がん対策を総合的に推進することを定めました。この法律により、ホスピスケア・緩和ケアはがん治療の重要な一環として位置づけられ、全国的にその提供体制の整備が進められるきっかけとなりました。
厚生労働省 がん対策基本法
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=79aa8258&dataType=0&pageNo=1
こと日本においてホスピスケア・緩和ケアというと末期がんというイメージが先行する傾向があるかと思います。確かに終末期医療においてがんの患者数が最も多いのですが、先に記したホスピスケア・緩和ケアに関する定義には「がん」という疾患の特定はありません。
がん以外の疾患(心疾患や神経疾患など多数)でもホスピスケア・緩和ケアは必要となります。
人生の最期を迎える場所について
2022年の日本における死因は悪性新生物<腫瘍>(がん)24.6%、心疾患14.8%、老衰11.4%、脳血管疾患6.8%と続きます。
疾患が原因で最期を迎えることが多いということが分かります。そのため病院で最期を迎えることが最も一般的な状況ではありますが、ホスピスケアという考え方からすると、病院が最良の選択肢であるとは言えないかもしれません。
それを裏付けるデータとして、2021年に日本財団が「人生の最期の迎え方に関する全国調査」を公表しています。
この調査の結果では、最期を迎える場所として望ましい場所で「自宅」を選んだ人が58.8%である一方で「医療施設」を選んだ人は33.9%となっていました。
調査はコロナの時期(2020年11月)に行われたため、医療機関を選択する人が多いのではないかと思われましたが、多くの人が自宅を希望しているということが分かります。
また、高齢者の親を持つ子世代に対しても調査を行っています。
人生の最後において積極的な治療をうけるべきか、無理に治療をせず体を楽にさせることのどちらかを選ぶかにおいては、後者を選ぶ子世代が80%以上であることが示されています。
さらに、本調査では生活に対する意識や考え方、当事者から子、子から当事者を見たときの質問がされていますのでサマリーを抜粋しております。「自分らしく」という単語が目立ちます。「自分らしく」とはまさにQOLの根幹を成すものでしょう。ホスピスケアはまさにここを重視したケアになります。
日本財団 人生の最期の迎え方に関する全国調査報告書 より抜粋
https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/pr/2021/20210329-55543.html
ホスピスケア 病院と自宅の違い
ホスピスケア・緩和ケアにおいて病院と自宅では大きな違いがあります。
項目 |
病院(緩和ケア病棟など) |
自宅 |
環境 |
医療機関内であり、高度な医療設備が利用可能。 |
患者の自宅で行われ、慣れ親しんだ環境で過ごせる。 |
医療スタッフ |
専門の医師や看護師が24時間体制で対応。 |
在宅医療チーム(訪問する医師、看護師、薬剤師、介護士など)が定期的に訪問し、ケアを提供。 |
医療サービス |
高度な医療機器や緊急対応が可能。 |
緊急時の対応が限られるが、生活の質を重視したケアが可能。 |
精神的・社会的サポート |
医療スタッフによるサポートはあるが、家族との時間が限られることも。 |
家族や友人が近くにいることで、精神的な安心感が得られる。 |
費用 |
長期入院や多くの医療行為で高額になる傾向がある。とくに自費となる差額ベッド代は高額となる。 |
自宅でのケアはコストが抑えられるが、必要なサービスによっては費用が発生する。 |
患者の希望 |
医療的な観点から最適な治療を受けることができる。 |
患者の希望や家族との時間を重視したケアが可能。 |
自宅で自分らしく最期を迎えるための在宅ホスピスケア
ホスピスケアは終末期医療というシンプルなものではありません。
痛みの緩和治療だけでなく、身体的・心理社会的・スピリチュアル(宗教的、哲学的なこころや精神、霊魂、魂など)なことに配慮しながら、死期より以前から死後まで、患者の家族も含め、総合的に人生のQOL向上に努める。死にゆく者の自分らしさを尊重したケアになります。
また、約8割の方が病院で亡くなっている日本の現状において、自分らしく自宅で最期を迎えられるような「在宅」でのホスピスケアの普及が望まれています。
ききょう会は患者さんとご家族のQOLを考えた在宅ホスピスケアを行っております。
在宅ホスピスケアをより知っていただけるようスタッフのインタビュー記事を掲載しております。ぜひご覧ください。