「病院に行く」から「医療が来る」へ 在宅医療とオンライン診療が融合する医療の未来
「住み慣れた自宅で、最期まで自分らしく過ごしたい」
そう願う患者様やご家族が増えている一方で、心のどこかに「でも、自宅で急変したらどうしよう?」「夜中に痛くなったら、誰が助けてくれるの?」という不安を抱えている方も少なくありません。これまでの医療は、何かあれば病院に行くことが当たり前でした。病院には医師がいて、高度な検査機器があり、24時間の監視体制があるからです。
しかし今、テクノロジーの進化により、その安心の形が大きく変わろうとしています。未来の医療では「病院が家にやってくる」、あるいは「空気のように医療が生活に溶け込む」と言われています。
今回のブログでは、現在様々な実証が行われている医療テクノロジーや、ききょう会でも導入しているテクノロジーに触れて、未来の在宅医療を想像していきます。
「High Touch」と「High Tech」の融合
在宅医療は、医師や看護師が患者様の生活の場にお邪魔する、非常に人間味あふれる「High Touch(ハイタッチ)」な医療です。手で触れ、顔色を見て、暮らしの匂いを感じる。これはAIがどれだけ進化しても変わらない、医療の根幹です 。
一方で、医師が常に患者様の横にいることは物理的に不可能です。そこで登場するのが、オンライン診療やIoT機器といった「High Tech(ハイテク)」です。
これらは対立するもののように見られるかもしれません。しかし、私たちは「ふれあう訪問診療」と「つながり続けるオンライン診療」は融合するものだと考えています。
1訪問診療の役割:処置、身体診察、対話による深い信頼関係の構築など
2オンライン診療の役割:ちょっとした体調変化の早期相談、夜間の不安解消、薬の調整など
この2つを組み合わせることで、「医師が来ていない時間」の空白を埋め、まるで入院しているかのような安心感を自宅で実現することができるでしょう。
スローでデジタルな診療という考え方
ききょう会では、最新のデジタル技術を導入することに積極的ですが、それは「効率化して楽をするため」ではありません。
事務作業等にかかる時間をデジタルで短縮し、「その分、患者様の手を握り、お話を聞く時間を増やすため」です 。デジタルの速さを、ケアの丁寧さ(遅さ)に変換するする考え方が重要です。
テクノロジーが支える「見えない安心」
では、具体的にどのような技術が、皆様の在宅療養を支えているのでしょうか。
多職種をつなぐデジタルツール
在宅医療はチーム戦です。医師、看護師、ケアマネジャー、薬剤師、ヘルパーなど、多くの専門職が関わります。以前は、電話やFAXでの連絡が主で、「言った言わない」のトラブルや、情報共有の遅れが課題でした 。
現在、ききょう会では「Medical Care Station(MCS)」という医療介護専用のコミュニケーションツールや、入退院調整システム「CARE BOOK」を導入しています 。
これは、患者様を中心としたデジタル連絡ノートのようなものです。
「今日はお熱が少し高いです」
「お孫さんの写真を見て笑っていました」
「お薬が飲み込みにくそうです」
こうした情報が、リアルタイムでチーム全員に共有されます。
医師はチャットで即座に指示を出すことができるようになり、連携する訪問看護師さんやケアマネジャーさんたちがスムーズに動けるようになります。
入院が必要になった際も、CAREBOOKを使えば、医療相談員が電話で何件も問い合わせることなく、一瞬で患者様の情報を病院と共有し、受け入れ先を探すことができます。
これにより、患者様やご家族は同じ説明を何度もするストレスから解放され、医療者は常に最新の状態を把握して動くことができるのです。
MCSやCAREBOOKについてはこちらブログに説明をしています。
https://kikyoukai.net/blog/byoushin-renkei
CARBOOK WEBサイトより引用
生成AIで非本質的なタスクを自動化
医療では多くの記録書類を扱います。例えば、診療録(カルテ)、入退院情報、保険情報、家族情報、ADLや介護情報などジャンルの異なる情報が数多く存在しています。
これらの情報の入出力には多大な時間がかかっていますので、これらの時間を削減することが医療の質向上に繋がります。
現在、ききょう会では「medimo」という、患者様との会話問診情報から自動的にカルテを作成するAIシステムを導入することで、カルテ入力の時間を大幅に削減しています。
得られた時間は、患者さんや家族、スタッフとのコミュニケーションなど医療として本質的に重要な時間に当てられるようにしています。
自宅を病室に変えるウェアラブルデバイスとAI
例えばスマートウォッチのようなウェアラブルデバイスは、単なる健康グッズから医療機器へと進化しています。
将来的には(そして一部はすでに)、患者様が腕時計型のデバイス等をつけるだけで、心拍数、酸素飽和度、睡眠状態などが24時間モニタリングされ、異常があれば自動的にクリニックにアラートが届くようになります 。
さらに、そこにAI(人工知能)が加わることで、「予兆検知」が可能になります。
「〇〇さんのバイタルデータが、3日後の心不全悪化の兆候を示しています」と、AIが医師に知らせる。そうすれば、私たちは「苦しくなってから」往診するのではなく、「苦しくなる前に」お薬を調整に行けるのです 。
これが、未来の在宅医療です。痛い思い、苦しい思いを未然に防ぐ。テクノロジーは、そのための見えない見守りとなるのです。
https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/shin_ai/3kai/siryo2.pdf
厚生労働省資料より引用
2030年の医療体験 〜「我慢」のない世界へ〜
少し先の未来を想像してみましょう。2030年頃には、医療体験はさらに劇的に変化しているでしょう 。
バイオデジタルツインで「もう一人の自分」が治療を試す
「デジタルツイン」という技術をご存知でしょうか。デジタルツインとは、現実世界の物理的な対象(ここでは患者の身体)を、デジタル空間上に双子のように再現する技術です。ウェアラブルデバイスや電子カルテから収集された膨大なデータ(PHR: Personal Health Record)をもとに、サイバー空間上に「もう一人の自分」が構築されます。
日本はデジタル医療データバンク構想により医療のデジタルツインを進めています。
デジタルツインが実現すると、例えば新しい薬を試すとき、まずはデジタルのあなたに投与してシミュレーションを行います。副作用が出ないか、効果はあるか。それを確認してから、現実のあなたに投与する。これにより、身体への負担やリスクを最小限に抑えた完全オーダーメイド医療が自宅にいながら受けられるようになります 。
また、手術が必要な場合でも、事前に患者の臓器モデルを用いたリハーサルが行われ、安全性が飛躍的に向上すると言われています。
https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/241205/siryo2.pdf
内閣府資料より引用
家族が「家族」に戻るためのテクノロジー
在宅介護において、ご家族が「介護者」としての役割に押しつぶされそうになることがあります。移動介助や食事介助、下のお世話に体調管理など・・・想像より多くの介助が必要になるものです。
しかし、モニタリングや体調管理をAIやロボット、オンライン診療に任せることができれば、ご家族は「介護者」から解放され、純粋に「娘として」「夫として」、患者様の手を握り、思い出話を語り合う家族の時間を取り戻すことができます 。
テクノロジーの究極の目的は、「人間らしい時間」の創出にあると私たちは信じています。
ききょう会の新たな挑戦 〜睡眠時無呼吸症候群(SAS)完全オンライン診療〜
最後に、当院が2025年8月から開始した、具体的な「未来型医療」の取り組みをご紹介します。それが、「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の完全オンライン診療」です 。
なぜ「睡眠」なのか?
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、寝ている間に呼吸が止まり、激しいいびきや日中の強い眠気を引き起こす病気です。しかし、怖いのはそれだけではありません。放置すると、高血圧、心筋梗塞、脳卒中といった命に関わる病気のリスクが数倍に跳ね上がることが分かっています 。
特に働き盛りの世代や、肥満傾向のある方に多いのですが、「いびきくらいで病院に行くのは・・・」「忙しくて通院できない」という理由で、多くの方が未治療のまま放置されているのが現実です。
「通院ゼロ」で完結する新しい医療モデル
そこで私たちは、この治療のハードルを極限まで下げるために、「来院せずに検査から治療まで完結する」仕組みを作りました。
また、「診療から決済までスマホで完結」できることで、気になったときにすぐに診察可能となり、診療のハードルを下げています。
1. 予約は24時間Webで:仕事が終わった後や、ふと思い立った時にいつでも予約できます。
2. 診察はビデオ通話で:ご自宅や職場から、スマホ一つで医師の診察が受けられます。移動時間も待ち時間もゼロです。
3. 検査キットは自宅に届く:専用の検査機器が宅配便で届きます。寝る時に装着し、終わったらポストに投函して返却するだけ。入院の必要はありません。
4. 治療機器(CPAP)も配送:治療が必要な場合、CPAPという機器をご自宅にお届けします。使い方は専門スタッフがオンラインや電話で丁寧にサポートします。
5.毎月の通院もオンライン:これまで毎月必要だった通院も、オンライン診療で対応。機器のデータはクラウドを通じて医師に共有されるため、診察室にいるのと同じ精度で管理が可能です。
もちろん、これらはすべて健康保険が適用されます。
ききょう会は本来、在宅医療(訪問診療)のクリニックですが、この「オンライン診療」を導入することで、「通院が大変」というすべての方に、質の高い医療を届けたいと考えています。
もし、ご家族で「いびきがうるさい」「日中いつも眠そうだ」という方がいらっしゃれば、ぜひ一度、この新しい医療の形を体験してみてください。
ききょう会の睡眠時無呼吸症候群オンライン診療はこちら
https://kikyoukai.net/sas-online
おわりに
医療は今、「病院という建物」から飛び出し、皆様の生活の中へと広がっています。
ききょう会は、最新のテクノロジーと、変わらぬ「人を想う心」を両輪として、皆様がどんな時でも安心して笑顔で過ごせるよう、これからも進化を続けてまいります。
在宅医療のご相談、睡眠時無呼吸症候群オンライン診療のお申し込みは、当院のWebサイトからいつでも受け付けております。どうぞ、お気軽にご相談ください。
睡眠時無呼吸症候群オンライン診療
https://kikyoukai.net/sas-online
医療法人ききょう会は東京都から埼玉県まで広く在宅医療(訪問診療)の提供を行っており、特に在宅ホスピスケア・緩和ケアに力を入れています。詳細は以下クリニックの方にお問合せ下さいませ。
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