【令和8年度診療報酬改定】義務化された事業継続計画(BCP)への対応について雛形などまとめ
医療機関(災害拠点病院以外)における災害対応のためのBCP作成指針より引用
令和8年度(2026年度)の診療報酬改定により、多くの医療機関においてBCPの策定と定期的な見直し体制の構築が「義務化」されました。
先の当法人のブログでも取り上げました。
https://kikyoukai.net/blog/mirai
これまで、大規模な災害拠点病院などを中心に推奨されてきたBCPですが、今回の改定により、地域医療を担う「機能強化加算」の届出医療機関や、「在宅療養支援診療所(在支診)」に対しても、施設基準の必須要件として厳格に組み込まれることとなりました。
令和8年3月31日時点で既に届出を行っている医療機関には、令和9年(2027年)5月31日までの経過措置(猶予期間)が設けられていますが、新規で届け出る場合は即時適用となります 。猶予期間を過ぎて未策定のままであると、加算の算定が不可となるだけでなく、最悪の場合は施設基準届出の取り消し処分や過去に遡っての返還を求められるといった甚大な経営リスクも生じます。
当法人でもBCP策定をするにあたり、医療機関のBCPについて調査を行いましたので、その情報をまとめます。
当法人のような「在宅医療を提供するクリニック」から、「外来診療を中心とするクリニック」「200床未満の中小病院」の3つに分け、策定のポイントと活用できる雛形(テンプレート)のリンクをまとめました。
なお、共通の参考リンクとして厚生労働省の「医療施設の災害対応のための事業継続計画(BCP)」のページへのリンクを記しておきます。
在宅医療クリニック(在支診)におけるBCP策定ポイント
訪問診療を提供している在宅療養支援診療所(在支診)は、自力での避難が困難な高齢者や、人工呼吸器などの高度な医療機器を使用する重症患者の命綱です。そのため、在宅医療機関におけるBCP策定は、他施設と比べて高度なトリアージ能力と、地域を巻き込んだ連携体制の構築が求められます。
24時間体制の「実質化」と自院の責任範囲の明確化
令和8年度改定では、在宅医療における24時間対応について、外部委託に依存した見せかけの体制に対する評価が厳格化され、自院でファーストコールを受ける一次対応体制の構築が強く求められるようになりました。これはBCPにおいても直結する考え方であり、有事の際に「誰が指揮を執り、どの患者から対応するか」という意思決定を自院の責任において迅速に行う体制(災害対策本部の設置と権限移譲)を計画に明記しなければなりません。
患者のトリアージと優先訪問リストの作成
災害時、限られたスタッフで全ての在宅患者を訪問することは物理的に不可能です。そのため、平時から患者の医療依存度に基づいたトリアージ(優先度付け)を行うことがBCPでは重要となります。例えば以下のようなものです。
- 優先度(高): 人工呼吸器や酸素濃縮器など生命維持装置を使用しており、停電により直ちに生命の危機に陥る患者。
- 優先度(中): 頻回な処置(点滴や吸引など)が必要で、数日間の訪問停止が状態悪化を招く患者。
- 優先度(低): 状態が安定しており、数日分の残薬があり、家族による見守りが可能な患者。
有事の際は、優先度(高)の患者に対する安否確認や必要であれば電源当の手配を最優先とする行動計画を立案します。
多職種連携による安否確認の仕組みを構築
在宅医療は自院単独では完結しません。通信インフラが途絶した状況下において患者さんの安否を迅速に把握するため、訪問看護ステーション、ケアマネジャー、訪問介護のヘルパーとの重層的な連絡網(MedicalCareStationなどの医療介護連携用チャットや災害伝言ダイヤルの活用など)を事前に取り決めておく必要があります。
さらに、地域をエリアごとに分割し、各職種が手分けして担当エリアの患者状況を確認・集約する手順をBCPに組み込むことが実効性を高めます。
形骸化を防ぐ実践的訓練のPDCAサイクル
厚労省の要件には「定期的な計画の見直し」が明記されています。在宅医療の現場で推奨される訓練には、指揮命令系統を確認する「机上訓練」、スタッフ自身の命を守る「安全確保訓練」、実際に連絡網を稼働させる「安否確認訓練」、そして重症患者を後方支援病院へ移送する「代替施設への移動訓練」などがあります。また、BCP責任者(通常は院長)、推進実務を担うBCP担当者(看護師長など)や各部門の担当リーダーといった役割を明確に割り当てる組織づくりが不可欠です。
在宅医療クリニック向け・参考になる雛形とリンク
ゼロから計画書を作るのは至難の業です。以下に参考になる手引きや雛形へのリンクをまとめましたので、まずは自院向けにカスタマイズするのが良いでしょう。
厚生労働省 BCP策定の手引き 在宅医療を提供する診療所編
「災害対策マニュアルとBCPの違い」などBCPの基礎知識から、BCPの文書化まで広くまとまっています。以下画像は目次を抜粋した参考のコンテンツです。
https://www.mhlw.go.jp/content/10802000/001112938.pdf
厚生労働省 BCP策定の手引き 在宅医療を提供する診療所編より引用
横須賀市医師会提供:在宅医療を提供する診療所等の災害時におけるBCP雛形
職員の出勤状況(同居家族の有無や職場までの距離)の把握から、訪問先で被災した際のシナリオ、ヒト・モノ・移動手段の確保策まで、実践的な穴埋め形式のチェックリストと体制表が完備されています。
簡易版は穴を埋めていけば完成するようなものとなっており、最初に取り組む場合は簡易版からのほうが良いかもしれません。
詳細版は簡易版にある穴埋めに加え、地域の状況を入れて「考える」ような仕様になっている本格版です。
災害時における在宅医療継続計画(BCP)シンプル版より引用
在宅医療を提供する診療所等の災害時における事業継続計画(BCP)横須賀市医師会版より引用
外来メインのクリニックにおけるBCP策定の要点
機能強化加算を算定する一般的な外来診療所では、「地域住民のパニックを防ぎ、医療アクセスの最初の窓口機能を維持すること」、そして「慢性疾患患者への継続処方を途絶えさせないこと」が最大の使命となります。
継続処方体制とIT-BCPの重要性
外来診療所は電子カルテシステムへの依存度が相対的に高いとされています。自然災害による停電はもちろん、昨今急増しているランサムウェア等のサイバー攻撃により電子カルテがダウンした場合、高血圧や糖尿病等の患者の過去の診療録にアクセスできず、処方がストップして二次的健康被害を引き起こします。これを防ぐため、院内サーバー(オンプレミス型)から、データ保全性に優れたクラウド型電子カルテへの移行を検討することが、極めて有効なBCP対策となります。同時に、システム完全停止時を想定し、手書きの処方箋フォーマットやカーボンコピーによる簡易紙カルテの運用手順を明確に定めておく必要があります。
単一院長のリスク回避
多くの中小クリニックでは、「院長=唯一の管理者」となっています。院長自身が被災したり、新興感染症で隔離されたりした場合、組織の指揮系統が完全に麻痺します。これを回避するため、平時から所属する地区医師会や近隣のクリニックと「相互代行診療」の取り決めを交わすとともに、事務長やベテラン看護師に対して、トリアージの誘導や物資調達などの「医療行為以外の指揮権限」を委譲するタスクシフト体制を文書化しておくことが重要とされています。
中小病院(200床未満)におけるBCP策定と地域ハブ機能
機能強化加算を算定する200床未満の中小病院は、自院の入院患者の命を守りつつ、被災した地域住民の受け皿となるという二面的な役割を担います。大規模災害拠点病院ほどのリソースを持たないからこそ、現実的な資源配分の戦略が求められます。
インフラリソースの特定エリアへの集中
まずは、自院の自家発電機が燃料満タンで何時間稼働するのか、受水槽の水は何日間もつのかを定量的に把握します。その上で、全館に電力を供給するのではなく、人工呼吸器を使用している病室やナースコール、手術室など、生命維持に直結する非常電源エリアへ供給を集中させる運用手順(縮小運用モード)を定めます。
地域連携における後方支援機能の明文化
令和8年度改定の基本方針において、「在宅療養患者や介護保険施設等入所者の後方支援機能(緊急入院等)を担う医療機関の評価」が明確に打ち出されています。地域の在支診や介護施設が被災し、機能不全に陥った場合、そこから溢れた重症の在宅難民を一時的に受け入れるための予備ベッドの確保手順や、院内の軽症患者を早期退院させる「逆トリアージ」のルールを策定し、地域医療ネットワークの要としての機能を果たす準備が必要です。
サイバー攻撃を想定した部門間連携マニュアル
病院では、電子カルテだけでなく、PACS(画像診断システム)やオーダリングシステムなど多数のシステム、各部門システムが稼働しています。サイバー攻撃によりこれらが利用停止となった場合を想定し、システム情報部門と各診療科・事務部門が連携して、紙カルテへの移行、カーボンコピーでの処方箋発行、画像診断の代替運用を行う手順書を整備することが必要です。
外来クリニックや中小病院の参考になるIT-BCP雛形
静岡県・静岡県医師会 小規模医療機関向けBCP
病院内に設置された医療情報システム(オーダリングシステム、PACS、医事会計システム等)がサイバー攻撃などで停止した際の、具体的な代替手段(紙運用や未収扱いの検討など)と復旧手順が一覧表形式でまとまっており、参考になります。
静岡県・静岡県医師会 小規模医療機関向けBCPより引用
おわりに:BCP策定を「経営強化」のチャンスに変える
令和8年度診療報酬改定で示されたBCP義務化への対応は、決して加算減額のペナルティを回避するための事務作業で終わらせてはいけません。
有事の際に患者さんやスタッフの命を守り、地域医療を止めない体制を築くことは、医療機関としての価値を高めていくでしょう。
医療法人ききょう会は東京都から埼玉県まで広く在宅医療(訪問診療)の提供を行っており、特に在宅ホスピスケア・緩和ケアに力を入れています。診療については以下の各クリニックへお問合せください。
- 巣鴨ホームクリニック(豊島区、北区、文京区、板橋区)
- 東十条クリニック(豊島区、北区、文京区、板橋区、足立区)
- 花畑クリニック(足立区、葛飾区、埼玉県草加市、八潮市)
- 伊奈クリニック(埼玉県上尾市、桶川市、伊奈町、蓮田市、さいたま市見沼区・北区・岩槻区)
